今、この母乳育児の世界の動向について、少し触れておきたいと思います。
 人工ミルクをいち早く取り入れた先進国といわれているヨーロッパやアメリカが今、国を挙げて母乳育児を推進し、今や、ヨーロッパは母乳率が80%前後にまで回復してきておりますし、アメリカも「母乳と母乳育児に関する方針宣言」をアメリカ小児科学界の勧告を出し、母乳育児の世界のリーダーシップを取ろうと努力しています。

 WHO/UNICEFも母乳栄養成功のための十ヶ条や「母乳代替品の販売についての国際規準」等を1981年に出していますし、その規準に適した、母乳育児を実行した病院を「赤ちゃんにやさしい病院」として認定しています。

 

WHO/UNICEF 「母乳代替品(人工ミルクの事)の販売についての国際規準」
1.
母乳代替品の一般向けの宣伝の禁止
2.
母親への無料サンプルの提供の禁止
3.
医療機関での製品の宣伝の禁止
4.
母親に育児の助言をする企業の看護婦の禁止
5.
医療者への個人的な贈り物やサンプルの禁止
6.
製品に貼られる乳児の絵や写真を含む人工乳を理想化する言葉や画像の禁止
7.
医療者への情報は科学的で真実でなければいけない
8.
製品のラベルを含む人工栄養についてのすべて情報には、母親育児の利点と、人工栄養に伴う危険とコストについて説明されていなければならない
9.
コンデンスミルクなどの不適切な製品を赤ちゃんに奨励してはならない
10.
すべての製品は高い品質を保持し、製品が使用される国の天候や貯蔵方法なども考慮されなければならない

The WHO/UNICEFF : International Code of Marketing of Breastmilk Substitutes. 1981

 

WHO(世界保健機関)母乳栄養成功のための十ヶ条
(1989年3月14日 WHO/UNICEF共同声明)
第一条 母乳育児推進の方針を文書にして、すべての関係職員がいつでも確認できるようにしましょう。
第二条 この方針を実施するうえで、必要な知識と技術をすべての関係職員に指導しましょう。
第三条 すべての妊婦さんに母乳で育てる利点と、その方法を教えましょう。
第四条 お母さんを助けて、分娩後30分以内に赤ちゃんに母乳をあげられるようにしましょう。
第五条 母乳の飲ませ方をお母さんに実地に指導しましょう。
また、もし赤ちゃんをお母さんから離して収容しなければならない場合にも、
お母さんの母乳の分泌維持の方法を教えましょう。
第六条 医学的に必要ない限り、新生児には母乳以外の栄養や水分を与えないようにしましょう。
第七条 お母さんと赤ちゃんが一緒にいられるように、終日、母子同室を実施しましょう。
第八条 赤ちゃんが欲しがるときはいつでも、お母さんが母乳を飲ませてあげられるようにしましょう。
第九条 母乳で育てている赤ちゃんに、ゴムの乳首おしゃぶりを与えないようにしましょう。
第十条 母乳で育てるお母さんのための支援グループ作りを助け、
お母さんが退院するときにそれらのグループを紹介しましょう

The WHO/UNICEFF : International Code of Marketing of Breastmilk Substitutes. 1981

 そして、発展途上国が、今や人工ミルクに汚染されてきています。私が調査に行ったタイは、今や母乳率は4%台ですし、中国も都会ほど人工ミルクに汚染されてきています。来年の北京オリンピック後は急速に人工ミルクに汚染されていくことは、日本の40年前の東京オリンピック後や、韓国の19年前のソウルオリンピック後の母乳育児率の低下の動向からも推測することができます。

母乳と人工乳との比較

母乳
項目
人工乳
乳糖・適量
糖・無機成分
過剰
( + + + )
免疫物質の差異
( - )
( + + + )
ホルモンの差異
( ± )
( + + + )
成長分子の差異
( - )
ビフィズス菌
糞便の差異
大腸菌
(甘酸っぱいニオイ)
大腸ガン予防
(大人のニオイ)
( - )
腎機能への影響
( + + + )
( - )
心機能への影響
( + + + )
( + + + )
顎顔面発達への影響
( + )
( + )
眼軸発達不全(遠視)
( + + + )
-35mmHg以上
吸啜力への差異
-17mmHg以下
70%以上
全身労働
35%以下
( + + + )
安眠
( + )
( + + + )
耐性力への影響・我慢強い
( + )
( + + + )
スキンシップ
( ± )
( + + + )
情緒安定
( + )
( + + + )
心音呼吸リズム
( ± )
( + )
味覚異常
( + + + )
( ± )
前立腺虚弱化
( + + + )
( ± )
乳腺発達不良
( + + + )

*中島幸一先生の研究より参考

 次回は人工ミルクの弊害によって、身も心も、どのように侵されてきたか、日本で何が起きているのかを話してみようと思います。

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