授乳中の夫婦の問題〜part1

【 夫婦の時間も大切に 】

 小柄で愛らしいK子さんは三児の母です。
 上の二人は人工ミルク、三人目のお子さんで初めて母乳育児ができ、「とても楽しい」といつもニコニコして来院していたのに、この日は、ベッドに横たわると同時に涙をポロポロと流すのです。
 「どうしたの」とたずねると、消え入りそうな声で「夫が浮気をしているのが、わかったのです」と言うではありませんか。 子育てに協力的で、姑との間で食生活やしつけの事でもめても、いつもかばってくれ、子煩悩で、すてきな夫と聞いていたのに。
 「そうか、やさしいご主人さんも、やはりオスなのよね。あなたが育児で大変なのを見ているから無理にあなたを求めることが出来なくて、ついつい外にフラフラと求めてしまったのね」
 「でもね、今日帰ってこられたら、絶対に責めないで『ほっといてごめんなさい。さびしかったのね』とやさしく迎え入れてあげてね」そうアドバイスし、「授乳中の夫婦の性生活」について話してあげました。
 次に来院された時は、すっかり以前の明るいK子さんに戻って、今は夫婦仲良く育児を楽しんでいます。

 授乳中の女性は、母乳の製造を促すホルモンのプロラクチンや、その他のホルモンが排卵を抑制する働きがあるために性欲が抑制されます。夜の夫婦生活は疎遠になりがちで、その結果、夫が浮気に走りやすい時期だともいわれています。
 女性はこの時期排卵がありません。潤滑油の役目を果たすものがないので、男性自身を受け入れにくく、痛みを伴うこともあります。またプロラクチンの働きで母性愛が高まっていて、どうしても夫より赤ちゃんに愛が集中してしまいます。
 そのため自然と夫をないがしろにしてしまう傾向があります。その上、おっぱい、おむつ、家事、洗濯と、母親は本当に忙しく、疲労もたまり、精神的余裕もないので、ますます夫婦の性生活は疎遠になっていきます。

 しかし、男性の生理は女性とちがって、精子がたまってくると排出が必要になります。これはおっぱいと同じです。ですから、私はお母さん方に諭します。
 「おっぱんがたまって赤ちゃんが吸ってくれるとすっきりするでしょ。自分で搾ったときはなにか違和感が残るわよね。おっぱいがたまったままにしておくと乳腺炎になってしまう。それと同じように男性もたまったままだと、ストレスがたまってくるものなの。自分で処理するだけではだめなのよ。だから外にはけ口を求めて、浮気なんてことになる。だから思いやりが必要よ。三回のうち一回は応じてあげてね。」
 『性』という字は『心』を『生かす』と書きます。お互いの立場を考え、男女の違いも理解し合って、歩み寄ることによって夫婦の絆も強まります。今はゼリー等、手軽で便利なものも市販されていますから、夫婦の甘い時間を共有することも忘れないで……。
 手や口などで優しく愛撫したり、スキンシップが必要なのは赤ちゃんばかりではありません。夫もある意味で大きな赤ちゃんです。
 赤ちゃんばかりに集中しているとやはり嫉妬します。「あなたのことも忘れていないわよ」ということを表現することも大切です。そしてまた夫にも、赤ちゃんにとって母親でもある妻の立場を十分に理解してもらいましょう。

 赤ちゃんを授かった喜びも束の間、子育てが大変と育児ノイローゼになってしまう新米ママも多いと聞きますが、育児は夫との共同作業です。夫との強い絆のもとに乗り越えていってほしいものです。その基礎はやはり夫婦間のスキンシップなのです。


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